2011年7月29日(金)
Ctrl+スクロール で文字を太く大きくできます。




「明子と卑小な僕」





 お前はずるいぞ、おまえはずるい、なんて図々しい奴だ。清は詰問調でこういった。僕は、なんでだよと言い返した。清が言うには、お前は抜け駆けするからなと言われた。


 ははあ、これは、あの時のことを言っているんだな。明子をデートに誘ったことをだ。確かに僕は抜け駆けした。清には悪いが、明子を誘わないで他の奴に取られるのは嫌だった。清に明子を取られるなんて論外だ。こいつにだけは取られたくない。だって、こいつはただの助平な奴だからだ。明子と寝たいだけなんだ。僕には正論があるぞ。明子が好きなんだ。好きで好きでたまらないんだ。でもこういったところで、僕にも明子と寝たいという以上の気持ちは見えなかった。清と同格か。おもしろくないけれど認めよう。俺もあいつも大して変わらない。清が明子を欲しいように、それ以上に俺は明子が欲しいんだ。明子が若いからだ。若い性がまぶしすぎるんだ。明子の肢体は俺を困らせる。俺はただただ明子を求める僕(しもべ)となるだけなんだ。明子という大きな罠に落ちた負け犬なんだ。俺がどんなに明子を求めても、明子という大きな手にからめ捕られ、仕える給仕のようなみじめな立場からは出ていくことができない。清と争っている。清は単純な奴だから、明子と仲良くなろうと努力するだろう。俺は、欲しいけれど、ストレートに求められない。ワンクッション置いて、ごまかそうとするんだ。身体だけが欲しいんじゃない。好きだという気持ち、明子を思う気持ちがあると。身体目当てだなんで自分に対していうわけにはいかない。俺はずるい奴で、臆病で、腰抜けなんだ。いつだって俺は卑怯者なんだ。清のほうがよほど、自分に正直で心を開いていることか。そう、俺の最大の卑怯な点は心を開かないで、鎧を身に着け、鎧を誇示し、自分の惨めで卑小な自身の姿を隠そう、みんなの目から欺こうとするところなんだ。俺の核心は、爪の垢なんだ。